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東京高等裁判所 昭和50年(ラ)549号 決定

抗告人

(仮名)山本喜三郎

外一名

右代理人

佐藤保茂

外一名

相手方

(仮名)加藤雪雄

外二名

主文

本件各抗告をいずれも棄却する。

抗告費用は、抗告人らの負担とする。

理由

一抗告人鈴木善治(仮名)代理人は、「抗告人鈴木善治に対し、本件遺産についての相当の取得分を認める。」趣旨の裁判を求め、抗告人山本喜三郎代理人は、原審判を取り消し、更に相当の審判を求めた。

抗告人らの抗告の理由は、別紙記載(略)のとおりである。

二(抗告人鈴木善治の抗告について〈省略〉

三(抗告人山本喜三郎の抗告について)

(一)  抗告理由第一について

抗告人山本喜三郎は、抗告人山本喜三郎が、被相続人の死亡後今日まで遺産を占有管理し相手方らの相続権を侵害してきており、相手方らは、これを相続開始の時から知つていたのであるから、相手方らの相続回復請求権は相続開始後五年の経過により消滅した旨主張する。

しかし、遺産分割請求権は、共同相続人各自が自己の相続分(共有持分権)の内容を実現するために有する請求権であつて、相続人でない者が自ら相続人であると僣称して、正当な相続人の相続権を侵害している場合に、正当な相続人がその侵害の排除を求める権利である相続回復請求権とは平面を異にするばかりでなく、共同相続人の遺産分割請求権を民法八四四条の短期消滅時効にかからしめることは相当でなく、共同相続人の遺産分割請求権については同条の適用ないし類推適用はないものと解するのが相当である。

仮に、遺産分割請求権につき民法八八四条の適用ないし類推適用があると解すべきであるとしても、本件記録によれば、抗告人山本喜三郎は、原審判手続前の遺産分割調停申立事件の申立人であり、同調停事件が不調になり審判手続に移行するに至つて民法八八四条の時効の援用を主張するに至つたものであること、が認められ、さすれば、同抗告人の右消滅時効援用の主張は、同抗告人の本件遺産分割手続の申立行為と相容れないものというべく、右申立が仮に同抗告人の主張するように法律の不知によるものであるとしても、同抗告人は信義則に照らし、もはや本件審判手続において右消滅時効の援用を主張することは許されないものと解すべきである。

したがつて、抗告人山本喜三郎の前記主張はいずれの点からいつても失当である。

(二)  抗告理由第二について

本件記録によれば、相手方斉藤玉枝(仮名)は、被相続人から本件遺産の一部の土地を借りて耕作していたが、昭和二八年頃同相手方が右部分の耕作を止めてこれを抗告人山本喜三郎が耕作することになつた際、同抗告人が相手方斉藤玉枝に対し金五万円を支払つた(離作料と推測される。)ことが認められる。

抗告人山本喜三郎は、本件審判においては右五万円の授受について当然考慮すべきであるのに、原審はこれを考慮していないと主張するが、本件記録によれば、本件遺産たる土地(すべて農地)は、本件相続開始後今日まで、一時、相手方斉藤玉枝、同加藤雪男、抗告人鈴木善治の母いくよなどがその一部を耕作したことがあつたほかは抗告人山本喜三郎が耕作し、その収益をほぼ独占してきたことが認められ(なお同抗告人が遺産によつて得た収益は原審判において考慮されていない。)、右事実によれば、抗告人山本喜三郎の相手方斉藤玉枝に対する前記金五万円の支払は、同抗告人が同相手方の耕作していた農地を自ら耕作してその収益を取得するために自らの判断でなした本件相続関係とは別個の同抗告人の出捐行為というべきもので、同抗告人が自ら負担すべきものである。

したがつて、抗告人山本喜三郎の抗告理由第二記載の主張も失当に帰する。

四よつて、本件抗告はいずれも理由がないから棄却し、抗告費用は抗告人らに負担させることとし、主文のとおり決定する。

(小山俊彦 山田二郎 堂薗守正)

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